納税者の事務的・精神的負担を軽減する添付書面制度の活用と注意点
目次
税務調査の予防策である書面添付制度とは
相続税の申告のお手伝いをしておりますと、5年間という非常に長い期間設けられている税務調査を心配される納税者の方が非常に多くいらっしゃいます。
そのような納税者の方には税務調査に対して有効な『書面添付制度』があります。
今回はその制度の概要と実務面での体験談をご説明させて頂きます。
制度のご説明と3つのメリット
書面添付制度とは、税理士が作成した申告書に対して、その作成の経緯や論点、確認方法等を詳細に記述する保証書のような位置づけとなります。
申告書は相続税の金額を算出するための数値がまとめられた書類であるのに対し、書面添付制度は、その背景や論点を説明する説明書というイメージをもたれると分かりやすいと思います。
この制度は、納税者の方にとって非常に有用な制度であり、3つのメリットがあります。
税務調査の確率が下がる可能性がある
添付書面は相続税算出の際の説明書の役割を果たすため、税務署の把握したい情報を事前に提示することにより、疑問点が解消されるのであれば重複して確認しても時間の無駄だというように納得できれば調査が行われないということが考えられます。
税務調査が省略・期間短縮される可能性がある
書面添付制度を活用しますと、通常の税務調査の前に、税理士と税務署の2者での事前面談(意見聴取)の場が設けられます。
その場で税務職員に対して疑問点を説明することができ、解消することが出来れば納税者の方は税務職員とは会わずに調査を終わらせることが出来ます。
また、調査が行われる場合でも、既に書面添付に記載している論点が解決しているのであれば、調査対象となる確認事項が少なくなり、早めに調査が終わらせることも考えられます。
罰金が軽減される可能性がある
税理士と税務署の2者での事前面談(意見聴取)の場で修正するべき事項が発覚し、意見聴取の段階で修正を行う場合、本税以外の罰金(過少申告加算税)が免除されます。こちらも納税者の方にとっては金銭的・事務的・精神的な負担は軽減されます。
書面添付制度を活用したい方
筆者も書面添付制度を納税者の方からご依頼頂くことが多いのですが、メリットがあるから全ての方がこの制度を利用したほうがいいというわけではありません。
書面添付制度の活用をおすすめするした方がいいのでしょうか。
それは、一言でいうと、税務調査の対象になる確率が高い方、以下のような方になります。
1.トータルの遺産規模が数億円以上と大きい方
2.税務署が確認したくなる贈与や高額な資金移転が多い方
最近はインターネットで積極的に情報収集する納税者の方も増え、この制度を活用したいとご要望を頂くことが増えました。
しかし、申告義務が生じているが納税義務はなく、注意事項もない方はこの制度から得られるメリットは少ないといえます。
書面添付制度がやぶ蛇に?作成には税理士の力量が問われます
筆者の知り合いの税理士の経験談では、相続税専門でないため書面添付の作成に慣れておらず、記載内容が不十分であり、税務署側に逆に気になる内容を記載してしまって税務調査を誘発してしまったというケースがあったそうです。
余計な論点を書いてしまう場合にはやぶ蛇となってしまうため注意が必要です。
まとめ
書面添付制度は税務調査に対しては非常に有用な制度であるということをご説明させて頂きました。
筆者も必要性を感じれば、お手伝いの当初から、注意すべき点が途中から発覚した場合には途中からでもこの制度の活用をお勧めしています。
逆に、必要性が感じられない納税者の方には不要であるとアドバイスさせて頂きます。
書面添付制度は、たくさんの論点を検証する必要があるため税理士の責任が生じます。また、この制度を活用すれば税務調査は絶対に大丈夫というわけではなく、限界はあります。確認不足や税務判断が間違っていると不適切な内容の説明書となりますので、作成する税理士の力量が問われるといえるでしょう。
適切な内容を反映できると非常に有用な制度でありますが、誤った判断をしてしまうと諸刃の剣となってしまうので注意が必要です。
税理士法人ブライト相続 税理士 戸﨑 貴之