相続税の計算は難しい?相続税の税率と計算方法を分かりやすく解説
相続税の計算を、難しいと感じている方々が多いようです。
消費税や所得税、固定資産税などと比べると、そこまで身近な税金とは言えないでしょうし、消費税のように一律8%(※2019年10月以降は10%と8%が混在する予定)というわけではないため、「よく分からない」、「とっつきにくい」、「難しそう」というような印象を持ってしまうのかもしれません。
確かに、実際の相続税申告は、相続専門の税理士に依頼するのがリスクも少ないですし、余計な税金を支払わなくても済みます。
しかし、相続税がかかるかどうか、かかるとしたらどれくらいなのか、ある程度ご自身で分かるようであれば、相続対策をどこまで現実的に考えるべきかを判断することもできます。
そこで、相続税の税率や計算方法について、馴染みのない方々にも分かりやすいように、解説をしていきたいと思います。
是非、最後までご一読ください。
相続財産の規模によって税率は変わる
相続税は、亡くなった人が最終的に保有していた財産に対して、課される税金です。
所得(もうけ)に対して課される所得税や法人税とは、この部分がまず大きく違います。
また、相続税は、遺族の方々が相続で実際に取得した財産に、直接、税率(例えば消費税のように8%とか10%とか)を乗じるというものでもありません。
相続財産の規模によって税率が変わる、というのが相続税の大きな特徴です。
では、相続財産の規模を把握するためには、具体的に何をすればよいのか、順番に見ていきましょう。
相続財産を確認しよう
まずは、相続財産を確認する必要があります。
相続財産と聞いて、何が思い浮かぶでしょうか。
銀行等に預けている預貯金や、自宅や貸金庫等で保有している現金は、おそらく、すぐに思い浮かぶでしょう。証券会社と取引があれば、有価証券(上場株式、投資信託など)もすぐに思い浮かぶかもしれません。
自宅が持家だったり、他にも賃貸物件を所有しているようであれば、土地や家屋も相続財産に該当するということがお分かりかもしれません。
他にも、生命保険金や死亡退職金、役所から受け取る還付金等も、相続財産となります。家財一式や自動車、ゴルフ会員権等も相続財産です。
これらは、いわゆる「プラスの財産」ですが、「マイナスの財産」も確認する必要があります。
金融機関や個人からの借入金、役所等への税金の未払金、そして葬式費用なんかも、広い意味で「マイナスの財産」となります。
預貯金や土地等の「プラスの財産」から、借入金や未払金等の「マイナスの財産」を差し引いたものが、正味の遺産額になります。
相続財産を評価しよう
相続財産を確認したら、次に、その相続財産を評価する必要があります。
具体的な金額に換算しないと、税金を課すことが難しいためです。
預貯金や現金であれば、基本的にはそのままの金額を評価額として使えば良いのですが、有価証券や土地・家屋はどうでしょうか?これらは価値が変動する財産であり、簡単に財産評価額を確定することは出来ません。
相続財産の評価のルールは、「財産評価基本通達」等で細かく規定されています。
代表的な財産について、簡単にご紹介しましょう。
土地
土地は、路線価方式か倍率方式によります。
路線価や倍率は、毎年7月に国税庁より公表されています。
国税庁HPの路線価のページで、評価をしたい土地を検索すると、その土地が路線価地域なのか倍率地域なのかが分かります。特に専門家でなくても、比較的容易に調べることができると思いますので、試してみてください。
路線価地域であれば、評価したい土地に接している目の前の道路に金額(千円単位)が記載されているはずです。
例えば「100C」とあれば、その道路に接している土地は、1㎡当たり100,000円で評価をする、という意味です。従いまして、この1㎡当たりの路線価に、評価する土地の面積を乗じると、その土地の相続税評価額が(概算で)出ます。
よく「1坪当たり」と誤解する方がいらっしゃいますが、「1㎡当たり」ですので、ご注意ください。
ちなみに、「100C」の「C」は、借地権割合70%という意味です。(ちなみにDだと60%、Eだと50%、・・・)
その土地が自宅ではなく、第三者に貸していたり、逆に借りたりしていると、この借地権割合も考慮することになります。
倍率地域であれば、宅地、山林などの地目ごとに倍率が記載されています。その土地の固定資産税評価額に、その倍率を乗じれば、その土地の相続税評価額が出ます。
特に路線価地域であれば、その土地の形であったり、目の前の道路の幅であったり、各種制限であったりを考慮して、実際の相続税申告を行うことにはなりますが、まずは相続税の概算を知りたいという段階であれば、上記のような評価方法で、まずは問題ないと思います。
(路線価についてはこちらのページで徹底解説していますのでご参照ください。)
家屋
家屋は、固定資産税評価額により算出する方法が採られています。
自宅であればそのまま、固定資産税評価額100%で評価しますが、貸家であれば(原則)0.7を乗じます。
借家権と言いまして、その家屋を借りている第三者にも権利があることを考慮しているためです。
上場株式
上場株式については、銘柄ごとに、評価したいその時点での株価を使って評価をします。インターネット等で、比較的容易に株価を調べることができると思います。
実際の相続税申告においては、4つの株価の中から一番低い株価で評価をして良いことになっています。
例えば6月10日に死亡した人の財産評価をする場合は、次の4つの中から一番低い株価で評価をして良いことになります。
- 6月10日
- 6月の月平均
- 5月の月平均
- 4月の月平均
たまたま死亡日だけその銘柄の株価が上昇して、その次の日に乱降下した場合などは、課税の公平性が保てないため、いくつか選択肢があるわけです。
株式の銘柄ごとの月平均株価(終値)の情報につきましては、日本取引所グループのホームページで取得することができます。
特例や非課税枠を使おう
相続財産を確認し、評価をしたら、相続税ならではの特例や非課税制度が使えないかどうかを検討しましょう。
小規模宅地の特例
配偶者や同居親族が自宅の土地を取得する場合、その土地の評価額は、通常の評価額の80%減となります。(330㎡まで)
また、賃貸不動産(アパートや駐車場)についても、要件を満たせば、50%減で評価ができます。(200㎡まで)
生命保険と退職金の非課税枠
生命保険金や死亡退職金には、それぞれ独自の非課税の枠があります。
- 生命保険金のうち「500万円×法定相続人数」まで
- 死亡退職金のうち「500万円×法定相続人数」まで
法定相続人(次項2.参照)が例えば3人なら、生命保険金も死亡退職金も、1,500万円ずつまでは相続税が課されません。
非課税財産
相続財産であっても、以下の財産は課税の対象とはなりません。
- 墓所、仏壇、祭具
- 国や地方公共団体、特定の公益法人に寄付した財産
法定相続人の数も影響する
前項1.でも見てきました通り、相続税を計算するうえで、相続財産の規模というのは大事な要素となります。
他にも、相続税の計算をする上で欠かせない要素となるのが、法定相続人です。
法定相続人とは?
法定相続人とは、その名の通り、法律(民法)で定められた相続人のことです。
被相続人(死亡した人)の配偶者は、常に法定相続人となります。
配偶者以外の法定相続人は、以下の順位に従うことになります。
法定相続順位 | 法定相続人 | 法定相続分 |
---|---|---|
第一順位 | 子供 | 子供1/2 |
第二順位 | 直系尊属 (父母や祖父母など) |
直系尊属1/3 |
第三順位 | 兄弟姉妹 | 兄弟姉妹1/4 |
上位の順位の条件の人物が存在しなければ、下位の条件を見ることになります。
例えば、子供のいない夫婦の夫が死亡した場合には、第一順位となる子供がいないため、順位を一つ落として検討し、父母がいれば第二順位の法定相続で相続が行われることになります。
相続人の特定の仕方、戸籍の読み方についてはこちらのページで徹底解説しています。
基礎控除額とは?
法定相続人が、なぜ相続税の計算をする上で欠かせない要素となるのか、と言いますと、法定相続人の人数によって、非課税の枠となる金額が異なるためです
先ほど「1.3.2 生命保険と退職金の非課税枠」でご紹介した非課税もそうですが、それ以外に、財産全体に対しての非課税の枠、「基礎控除額」というものがあります。
簡単に言いますと、相続税がかからない範囲、ということです。
基礎控除額 = 3,000万円 + 600万円×法定相続人の数
例えば、法定相続人が、「妻と子供3人」の場合の基礎控除額はいくらでしょうか?
3,000万 + 600万×4名 = 5,400万円
となります。
法定相続人が1名であれば3,600万円、2名であれば4,200万円、3名であれば4,800万円・・・となります。
なお、法定相続人の数には、相続放棄をした人も含まれます。
正味の遺産額が、この基礎控除以下の場合には、相続税はかかりません。相続税の心配をしなくて良いことになります。特例を使わないでも基礎控除額以下であれば、相続税の申告そのものをする必要がありません。
相続税のお尋ね、申告要否検討表の書き方はこちらのページでご説明しています。
いったん法定相続分で取得したものとする
相続財産の確認・評価をして、法定相続人を確認してから基礎控除額を算出すると、相続税を計算するうえでの材料がほぼ揃ったことになります。
しかし、ここから、段階を踏んで計算していかなければなりません。
相続人が実際に取得した財産額を検討する前に、仮に、いったん法定相続人が法定相続分で取得したものとして、計算をする必要があるのです。
法定相続分とは?
ここで問題となるのが、法定相続分です。
その名の通り、法律(民法)で定められた相続分のことですが、必ずしも実際には法定相続分に応じた財産を取得する必要はありません。法定相続人の間で合意し、遺産分割協議書をきちんと残しておけば、極端な話、「100%:0%」のような財産の分け方にすることも可能です。
しかし、課税庁側の立場からしますと、相続人間の財産の分け方によって、徴収できる税金にばらつきがあるようでは、困ってしまいます。
そこで、実際にどのような財産の分け方にするかどうかはともかく、いったん法定相続分で財産を分けたものと仮定して、相続税の総額を算出し、課税庁側は一定の相続税額を(総額で)確保する、ということになるのです。
相続税の速算表
具体的な税金計算は、下記の速算表を使います。
【平成27年1月1日以後の場合】
法定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1000万円以下 | 10% | ― |
3000万円以下 | 15% | 50万円 |
5000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1700万円 |
3億円以下 | 45% | 2700万円 |
6億円以下 | 50% | 4200万円 |
6億円超 | 55% | 7200万円 |
【具体例】
正味の遺産額:2億3,400万円
法定相続人 :計4名(妻、長男、二男、長女)
2億3,400万円 - 5,400万円(基礎控除額:3,000万円+600万円×4名)
= 1億8,000万円
いったん法定相続分で取得したものとしますと…
妻 1億8,000万円 × 1/2 = 9,000万円
長男 1億8,000万円 × 1/6 = 3,000万円
二男 1億8,000万円 × 1/6 = 3,000万円
長女 1億8,000万円 × 1/6 = 3,000万円
速算表に当てはめて相続税額を計算しますと…
妻 9,000万円×30%(税率) - 700万円(控除額)=2,000万円
長男 3,000万円× 15%(税率) - 50万円(控除額) = 400万円
二男 3,000万円× 15%(税率) - 50万円(控除額) = 400万円
長女 3,000万円× 15%(税率) - 50万円(控除額) = 400万円
合計して相続税の総額を出す
このように、速算表で計算した法定相続人ごとの税額を合計したものが、相続税の総額となるわけです。
妻2,000万円+長男400万円+二男400万円+長女400万円=3,200万円
この例で言いますと、3,200万円が、相続人4名全員で納付すべき相続税額の総額となります
繰り返しますが、ここまでの段階では、実際にどのような財産の分け方にするかどうかは、全く考慮されていません。
あくまでも、仮に、理論上で、法定相続分で取得したものとして、計算しているにすぎません。
実際の取得割合に応じて按分
相続税を納付するのは、各相続人が個別に、ということになります。
ここから、各相続人の相続税を計算していくことになります。
先程計算した相続税の合計額は、法定相続分を基に計算したに過ぎず、実際には法定相続分の通りに相続されるとは限りません。
上記の例で、例えば長女が全く相続財産を取得しないような遺産分割協議で確定したにもかかわらず、上記の例の通りに、長女として算出された400万円を納付しろ、というのもおかしな話ですね。
したがって、相続財産を多く取得した人は相続税も多く払い、全く取得していない人は相続税も全く払わなくて良い、という、ある意味、当たり前と言えば当たり前の状態にするための計算の調整が必要となります。
上記の例で、二男と長女が全く財産を取得せず、妻と長男とで半分ずつ取得する、ということで遺産分割協議が確定したら、各人の相続税の納付額は、次の通りとなります。
妻 3,200万円×1/2(実際の取得割合)=1,600万円
長男 3,200万円×1/2(実際の取得割合)=1,600万円
二男 0円
長女 0円
繰り返しになりますが、課税庁側からすると、全体で3,200万円(=1,600万円+1,600万円)を確保されていますから、内訳がどうであろうと関係ありませんので、遺産分割には基本的には関与しないことになります。
税額軽減や税額控除も反映させよう
実は、ここでは終わりません。
状況によっては、相続税を軽減したり、控除したりすることができる場合がありますので、簡単にご紹介します。
配偶者の税額軽減
相続人が配偶者である場合には、配偶者の税額軽減が適用され、税額が一部もしくは全額免除となります。
具体的には、「1億6,000万円」と「法定相続分相当額」を比較し、どちらか高い金額に対する控除が適用されます。
上記の例では、配偶者である妻は、相続財産全体(2億3,400万円)の半分(1億1,700万円)を取得しており、1億6,000万円以下しか取得していませんので、税金はかからない、ということになります。
妻 3,200万円×1/2(実際の取得割合)=1,600万円 → 0円(配偶者税額軽減により)
長男 3,200万円×1/2(実際の取得割合)=1,600万円
二男 0円
長女 0円
課税庁側からすると、配偶者から徴収できるはずの1,600万円が徴収できませんので、遺産分割の内容によって徴収できる税額が減ってしまうことになります。先ほどまでの話と矛盾しますね。
しかし、被相続人の相続によって取得する財産も加わることで、配偶者の財産は膨れ上がることになります。
被相続人と配偶者は基本的には同世代ですので、課税庁側からすると、(嫌な言い方になりますが)近い将来に配偶者の相続が発生した際に多めに相続税が徴収できるため、ある意味、徴収を先送りにしているだけ、という面があります。
配偶者の税額軽減の制度につきましては、こちらのページで詳しく解説していますのでご参照ください。
未成年者控除、障害者控除
財産を取得した人が、法定相続人で、かつ次に該当する場合には、税額が控除されます。
【未成年者】
20歳に達するまでの年数(1年未満の端数があるときは1年)×10万円
【(日本国内に住所のある)障害者】
85歳に達するまでの年数×10万円(特別障害者は20万円)
相次相続控除
被相続人が亡くなる日前10年以内に、相続税を支払っていたことがある場合には、相続税の一部が控除できます。
同一財産について、相続税が二重にかかることになるため、税負担を緩和しようという制度です。
贈与税額控除
相続開始の日前3年以内に、被相続人から贈与された財産は、相続財産に加算されて、相続税の対象になります。
しかし、当時すでに贈与税を納付していた場合、相続税と贈与税の二重払いになってしまいますので、一定の金額が相続税額から控除されます。
相続税の申告、納税方法は?
税金を納める方法としては、大きく分けて「申告納税方式」と「賦課課税方式」があります。
「申告納税方式」とは、文字通り、納税者側が自ら(状況によっては税理士に依頼して)税金を計算して申告をし、納税する方法です。相続税は、所得税や法人税と同じく、この「申告納税方式」になります。
ちなみに余談となりますが、「賦課課税方式」は、役所が計算して賦課する方法で、固定資産税や自動車税がこれに該当します。(固定資産税や自動車税を、自分で計算したり、税理士に報酬を払って計算を依頼したことは基本的には無いはずです。)
相続税の申告
何も特例を使わないでも、基礎控除額を下回る財産しかない場合には、相続税の申告それ自体が必要ありません。
しかし、特例を使えば基礎控除額を下回るものの、特例を使わなければ基礎控除額を上回ってしまう場合には、相続税の申告を行う必要があります。
相続人が、申告期限までに、所轄税務署に、相続税申告書+必要書類を提出することになります。
ちなみに、所轄税務署は、被相続人(亡くなられた人)の住所地を所轄する税務署であって、相続人(財産を取得した人)の住所地を所轄する税務署ではありません。
申告期限
相続税の申告は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から「10か月以内」に行うことになっています。
例えば、1月10日に死亡した場合には、その年の11月10日が申告期限になります。
細かい話ですが、10か月後の日が土・日・祝日であれば、その翌日にずれ込みます。11月10日が土曜日であれば、翌11日も日曜日ですので、11月12日(月)が申告期限となります。
期限までに申告がないと、無申告加算税などのペナルティが発生することもあるため、期限を守るよう心がけましょう。
申告に必要な書類
まずは、国税庁が定める所定の様式の申告書が必要となります。
もちろん、数字を埋めた状態で申告書を提出しますが、その数字の基となる根拠資料(残高証明書、土地評価明細書、生命保険支払明細書、領収書、その他計算式入りの説明書など)が無いと、税務署も納得しないでしょう。
数字に直接関係がないと思われる書類でも、戸籍や住民票や印鑑証明書の他、遺産分割協議書や遺言書も必要となります。
提出書類は、種類も数も多く、内容も多岐にわたるため、税理士などの専門家へ依頼した方が良いかもしれません。
確かに税理士報酬は発生しますが、自分で申告する手間を減らせるだけでなく、申告書に税理士の署名押印があることで税務署に対する信頼感が増す、税額控除等のアドバイスを受けることで余分な税金を払わないで済む、などのメリットの方が大きいと思います。ご検討下さい。
相続税の納付
他の税金と同じように、納付書を金融機関等に持参して、納付することになります。必ずしも税務署で納付する必要はありません。
納付期限
納付期限は、申告期限と同じく、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から「10か月以内」となっています。
期限までに納付がないと、延滞税などのペナルティが発生することもあるため、期限を守るよう心がけましょう。
実務上、よく質問を頂きますが、申告期限(=納付期限)に間に合えば、申告が先でも、納付が先でも、問題はありません。無理に時期を揃える必要はありません。(期限後の修正申告等では話は別です。)
納付に必要な書類
納税には、税務署の所定の納付書が必要となります。
前述の通り、相続税は「申告納税方式」ですので、納付書も、納税者側が自ら(状況によっては税理士に依頼して)作成する必要があります。
相続人ごとに、個別の納付書が必要となります。
相続税と贈与税の違い
相続税とよく混同される税金として、贈与税というものがあります。
ともに、財産をもらった人が払うべき税金であり、課税対象額が大きくなるほど高い税率が課される「累進課税制度」が採用されている、という共通点があります。
その違いを簡単に言いますと、死亡した人からもらった財産に対して課されるのが相続税、ご存命の人からもらった財産に対して課されるのが贈与税、となります。
相続税と贈与税はどちらが安い?
資産家にとって、相続税と贈与税のどちらが安いのか?というのは、ある意味、永遠のテーマかもしれません。
つまり、自身が生きているうちに家族に財産を渡して贈与税が徴収されるのと、自身が亡くなった後に家族に財産を渡して相続税を徴収されるのと、どちらが税金が安く済むか、ということです。
結論から申し上げますと、その人の状況によって答えが違う、ということになります。
その人の財産規模、法定相続人の人数、もっと言ってしまえば、その人があと何年生きられるか、ということが分からないと、完全な答えは出てこなくなります。
しかし、相続税と贈与税の特徴を抑えることで、ある程度の目途は立てられるようになります。
贈与税の場合は、基礎控除(年間110万円)後の課税対象額が3,000万円以上である場合、55%の税率が課されます。
一方、相続税においては、基礎控除後の法定相続分に応じた課税対象額が6億円を超える場合に55%の税率が課されます。
3,000万円と6億円とでは、文字通り、桁が違いますね。
このように、相続税と贈与税の税率を単純に比較すると、贈与税の方が税金の負担額が多くなる傾向にあることがわかります。
しかし、相続は、被相続人が亡くなった時の1回だけですが、贈与は、その人が生きていれば何度でも行うことができます。法定相続人ではない人(嫁や孫など)への贈与も可能です。
何度かに分けて、しかも何人かに分けて贈与をすれば、税金の総額を安く抑えることができることになります。
節税に効果的な贈与の方法は、個別の計算や検討が必要になりますので、贈与を実行する場合には、専門家に相談してからということをお勧めします。
改正前後の違いに注意
2015年(平成27年)1月1日以降、贈与税は一部改正されました。
20歳以上の者が親や祖父母などの直系尊属から財産を贈与された場合(特例税率)と、それ以外の場合(一般税率)とで、課税価額・税率・控除額に変更が生じています。
【一般贈与財産用】(一般税率)
例えば、兄弟間の贈与、夫婦間の贈与、親から未成年者の子への贈与の場合などに使用します。
基礎控除後の課税価格 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
~200万円以下 | 10% | ― |
200万円超~300万円以下 | 15% | 10万円 |
300万円超~400万円以下 | 20% | 25万円 |
400万円超~600万円以下 | 30% | 65万円 |
600万円超~1,000万円以下 | 40% | 125万円 |
1,000万円超~1,500万円以下 | 45% | 175万円 |
1,500万円超~3,000万円以下 | 50% | 250万円 |
3,000万円超 | 55% | 400万円 |
【特例贈与財産用】(特例税率)
例えば、祖父から孫への贈与、父から子への贈与などに使用します。
基礎控除後の課税価格 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
~200万円以下 | 10% | ― |
200万円超~400万円以下 | 15% | 10万円 |
400万円超~600万円以下 | 20% | 30万円 |
600万円超~1,000万円以下 | 30% | 90万円 |
1,000万円超~1,500万円以下 | 40% | 190万円 |
1,500万円超~3,000万円以下 | 45% | 265万円 |
3,000万円超~4,500万円以下 | 50% | 415万円 |
4,500万円超~ | 55% | 640万円 |
「基礎控除後の課税価格」とは、贈与額から基礎控除額(110万円)を差し引いた後の金額です。
まとめ
相続税の税率や計算方法について、ご紹介してきました。
2015年(平成27年)に相続税の大幅な改正が行われた結果、相続税は、非常に身近な税金になりつつあります。多くの方々が、相続対策をしなければ、と感じているかもしれません。
いざという時に備えて、相続税に関する知識を最低限つけて、少なくとも、相続に関心を持つことが大切だと思います。
とは言え、専門家と一般の方々との知識や経験の差というのは、やはり大きいものがあります。
相続税や贈与税は多額になりがちですし、税務リスクもあるため、何でもかんでも自分だけで解決しようとせず、相続の専門家に依頼することも検討してみてはいかがでしょうか。
税理士法人ブライト相続 税理士 天満亮